新聞記事に勇気をもらい、退院後のビジョンも浮かぶようになった。自宅に帰ってから日常生活を送るための話し合いが、何度か行われた。(主治医・病棟看護師・地域連携室・保健師・呼吸器メーカーの担当者・訪問看護ステーション)
さらにこれから在宅生活のサポートをしてくださる訪問看護師さんたちが息子の様子や入浴の仕方などを学びに数回病院に足を運んでくれた。
自宅はマンションで、部屋の中に階段があるような高級マンションではないので、車イスでの移動の心配は少なかった。その点は良かったのだが、今までは、息子のケアは病院の看護師さんが行っていた。これも主に両親でしていく必要があった。
まずは、清拭の仕方などのレクチャーを受けた。つぎに呼吸器のホースを気管へ接続するために、のど元に「カニューレ」という小さなパーツがあるのだが、そのカニューレが抜けないように固定するひもの交換、カニューレまわりの消毒・ガーゼ交換、さらに、不慮の抜去に対応できるように再挿入の仕方など、いくらでも覚えること、慣れなければならないことが山ほどあった。
そして事件は起こった。
担当看護師指導のもと、カニューレの固定ひもを交換する際、左右から引っ張り合う私と妻の力加減が分からず、すぽんとカニューレが抜けてしまった。その直後、頭の中は本当は真っ白だったが、口では「落ち着いて、落ち着いて」と言っていた。そう言っている間に妻が、看護師のアドバイスでカニューレを入れていた。「抜去してしまった際にはすばやく清潔に再挿入する」たったそれだけのことに、焦ってしまった。見るとやるとは大違いを実感した。